三 角 の 翼
家の貧しい幸一くんは、発想が豊かな子だった。
国語や算数の成績は良くなかったが、工作の得意な幸一くんは、時折とんでもない物をこしらえた。
あれは小六の夏休み明けのことだったろうか。
夏休みの宿題の工作をみんなが学校に持ち寄った時のことだ。
幸一くんが持ち込んだのは、紙と竹と木で作られた模型飛行機だった。
しかしそれは市販品ではなく、その模造品でもない。
現代のステルス機のような三角翼を持った、彼のオリジナルデザインだった。
校庭で幸一くんがそっと投げると、そのユニークなデルタ翼機は20メートルくらい滑空して着地した。
クラスのみんなが驚いて賞賛の声を挙げた。
担任の伊東先生も、幸一くんの作ったデルタ翼機に「たいへんよくできました」のハンコを押した。
だが、全ての教科で成績優秀な正章くんは面白くなかった。
正章くんは、幸一くんのデルタ翼機の構造をそっくり真似て作り、何度も試験を行いながら細部の改善もした。
それから一週間ほど後だったろうか。
校庭で正章くんがそっと投げると、幸一くんの物をコピーしたデルタ翼機は50メートルくらい滑空して着地した。
みんな驚いた。「幸一くんの飛行機より遠くまで飛んだ!」「正章くん、スゴい!」正章くんは得意満面だ。
だが、その様子を見ていた伊東先生は静かにおっしゃった。「最初に思い付いてそれを形にしたのは、幸一くんです。」
正章くんをはじめ、みんな伊東先生の言葉の真意がよく分からなかった。恐らく、幸一くん本人だけを除いては。
あれから四十年になる。幸一くんは今、どんな仕事をしているだろう。そう思わずにはいられない。