オオカミと少年と村
ウソツキ村生まれの少年は嘘ばかりついていた。そのウソツキ村はハリケーンで壊滅的な被害を受けたが、
州庁からの「大丈夫ですか-?」の問いかけに「はい大丈夫です、何の被害もなく全員無事です。」と嘘を
ついたので本当に壊滅して、住人はチリチリばらばらになってしまった。少年も親や親族とはぐれ、流れ流
れて辿り着いたのが今いるショージキ村だった。■少年は職に就こうとした。ショージキ村職業安定所、略
してショージキハローワーク、更に略してショーハロに行って、職業紹介をして貰おうとした。だがショー
ハロの山本さんは言った。「嘘つきのあなたに紹介出来る仕事はありません。ただ・・・」ただなんです
か山本さん、と少年が訊くと山本太郎は続けた。「あなたに最適の仕事が、一つだけ、たった一つだけあり
ます。」少年は藁にもすがる想いで尋ねた。教えて下さい、山本さん、そのたった一つの仕事を僕に紹介し
て下さい、帰りに履歴書買ってすぐ書きますから!■少年は採用された。面接で嘘ばかり答えていたのに採
用された。その職場は、ショージキ村の外れにある牧場だった。牧場で一日中、羊がオオカミに襲われない
か見張る仕事だ。だが少年は退屈だった。ただぼうっとしてるだけで最低時給900円が貰えるのは良いが、
やることがなくて時間が過ぎていかないのだ。かと言って居眠りしてる間にオオカミが来たらヤバい。そこ
で少年は思い付いた。オオカミが襲って来たと嘘をつこう!そうすれば村が大騒ぎになって、高みの見物し
てれば退屈しない。へへへ、こりゃあ面白い!■少年はあらん限りの声で叫びながら村中を走った。オオカ
ミだー、オオカミが出たー、オオカミがものすごい大群でキター、羊はみんな食い殺されてしまって今この
村へ向かって来るぞー!だが、いくら叫び回ってもショージキ村は静穏を保っていた。なぜなら、村人は
皆、少年がウソツキ村の生まれで嘘ばかりつく育ちの者だと知っていたからだ。少年は焦った。丁寧な言い
方に変えてみた。オオカミです、オオカミが出ました、オオカミが史上稀に見る大群で接近してきました、
羊はことごとく殺傷されてしまってオオカミの群れは今この村へ向かっております!だが、いくら丁寧な言
い方に換えてもショージキ村は静穏を保っていた。なぜなら、丁寧な言い方に換えたことで少年は叫びにく
くなり、また、インパクトがなくなってしまったからである。■少年はとぼとぼと歩いて村外れの牧場へ向
かった。すると牧場が近付くにつれ、血の臭いが漂ってきた。少年は思った。くんくん、うーん、これは何
処かで嗅いだことのある臭いだぞ。そうだ、あれだ、ラム肉の臭いだ、僕の好きなジンギスカンの臭いだ!
だが牧場に着くと少年はガックリと膝を折った。羊がことごとく食い殺されてしまっていたからである。オ
オカミだ、オオカミの大群が本当に来たんだ、早く村へ知らせないと大変な事になる。少年はショージキ村
へと走った。するとオオカミの大群に追いついてしまったので少年は村を見下ろす小高い丘のてっぺんに立
つ樅の木に登って様子を見ていた。■日が傾く頃、少年は恐る恐るショージキ村へ行ってみた。村はいつも
の様に静穏を保っていた。まるで誰も住んでいないかの様だ。だが血の臭いが漂ってきた。少年は思った。
くんくん、うーん、これは一度も嗅いだことのない、なんかイヤーな感じの臭いだな、と思っていると、あ
る家の扉が開いて血まみれの老婆がバタンと倒れた。おばあさん、どうしたんです、どうしてこんな!少年
がそう尋ねると、老婆は息も絶え絶えで答えた。「オオカミが、オオカミの大群が、来たのよ、それで村人
はみんな襲われて、食い殺され、、」ショージキ村は、壊滅していた。■やがて警察が来た。警察は唯一の
生き残りであった少年を重要参考人として尋問した。少年はここでまた嘘をついた。はい、僕です、ショー
ジキ村の人を全員食い殺したのは僕がやりました、オオカミの大群が来たと云うのは僕のついた嘘です!だ
が、取り調べの刑事は信じなかった。なぜなら、少年がウソツキ村の生まれであることを知っていたからで
ある。刑事はここで思い出した。そういえば、こんなナゾナゾがあったなあ。Y字路があって、片方はウソ
ツキ村へ、もう片方はショージキ村へ行く道で、そこに一人の男が立っている。男はどちらの村人か分から
ない。ショージキ村へ行くには男になんて訊けば良いのかと。答が分かった人は110番に☎してください。
廃墟と化した村

