8760resort

Ultimate self-satisfaction impresses others.

七 本 足 君

昼近くに起床してスパゲティーを作ろうとすると、炊飯器の上の空間にクモが一匹いる。名前は知らないが

細くて長い脚を持つ、屋内でよく見かけるクモである。このクモは脚がもげやすいのか、彼(…♂か♀かは

分からないが、仮に♂としよう。)も長い前脚が一本失われている。薄暗い空間では私の目に見えない糸を

巧みに手繰りながら、器用に移動をしている。



クモの胴体は、その長い脚に比べてとても小さい。彼の場合、脚を含めた体長が約8cmあるのに頭部を含

めた胴体は1cm程度しかない。その小さな体に、よくもあの長い脚を七本も操る機能が備わっているもの

である。頭部には当然ながら脳に匹敵するものがあるのだろうが、その大きさは数ミリにも満たないだろ

う。彼の身体機能には、全く驚嘆するばかりである。



野菜を切ったり麺を茹でたりしながら、ふと先程の空間を見るとクモがいない。何処へ移動したのだろうと

探すと、今はもう水道の蛇口の傍に来ている。指先で少し刺激を与えると彼は糸をよじ登り始め、やがて天

井近くの隅へと移動した。かなりの範囲に糸を張り巡らせている。私の生活に支障がない限り、糸は取り除

かない。彼もこの家の「住民」だからである。



私は彼を「七本足君」と呼ぶことにした。疑問なのは、七本足君は一体何を獲物にしているのかと云うこと

だ。流しの付近で時おり見かける小蠅の類を捕らえているのだろうか。もしそうなら、彼はこの台所の衛生

を守ってくれている事になる。七本足君、君の脚はもげやすいんだ。だから移動の際はくれぐれも気を付け

ておくれ。これからもそっと見守っているから。



君は生きている。私も生きている。この家で共に生きている、仲間なんだ。



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