朝散歩しているとヒデ爺に会った。ヒデ爺はつい最近奥さんに先立たれて独り身だが、長年

奥さんに家事を何もかも任せていたので途方に暮れた毎日を送っているらしい。全自動洗濯

機の使い方が分からなくて毎回コインランドリーに行っている、電子レンジの使い方を誤っ

て鍋を真っ黒けにしてしまった、食事が作れなくて毎日コンビニ弁当やコンビニおにぎりで

済ませている、掃除機のフィルターの交換を忘れて埃が詰まってしまい火を吹いた、家にい

ると話し相手がいないからか独り言が一日中外に聞こえてくる、しかも耳が遠いから声が大

きくてたまたま近くを通りがかった人がびっくりする、などなどアブナイ噂が後を絶たな

い。そのヒデ爺が散歩中に話し掛けてきた。「ヤナローさんは食事どうしてますか。ヤナロ

ーさんはお一人になって長いですよね。」そこで私は笑いながらほんの冗談のつもりで答え

た。ハハハハハ、自炊が面倒くさいから毎日カップラーメンですよ、はい、一年中365日で

す。するとヒデ爺がいぶかしげに尋ねた。「カップラーメン？体に悪くないんですか？」全

然大丈夫です、だいたい体に悪い物を平気で売ってる訳ないじゃないですか、スープも全部

飲み干しますよ。するとヒデ爺が目から鱗が落ちた様な顔をして言った。「これは良いこと

を聞きました！わしもこれからは毎日カップラーメンにしますよ！！」それから一月ほど経

った頃、朝散歩中にヒデ爺の隣に住むマス婆さんに会った。最近ヒデ爺の姿が見えないので

尋ねるとマス婆さんは答えた。「ヤナローさん知らなかったの？ヒデ爺さんは体調崩して入

院しちゃったのよ、家の台所にはカップラーメンの空容器が山の様になってたらしいわ！」